界面活性剤

 先回の話は、高校生にはわかりにくかったようだ。石鹸がどうして陰イオン型でなければならないのかという説明が必要である。

 私たちの身の周りにあるものは、とういう訳か、水中で負電荷を帯びることになっている。衣類も髪の毛も皮膚もである。石鹸で洗うと、なぜ汚れが取れるのであろうか。
 これについて各種の参考書類を見てみると、油汚れは石鹸水中で細かくなって水和する(これを乳化と呼ぶ)とある。それだけではだめだ。

 どんなに細かく分散しても汚れが取れないこともある。逆性石鹸水の中に少量の油を入れて振ると見事に乳化するが、その中に指を突っ込むと手に油がへばりつく。洗っても洗ってもくっつき、這い上がってくる。これは20年ほど前、ある大学で出た問題であるが、高校の教科書、参考書はそれについての説明を付けることが無かった。これもプラグマティック化学を書く原動力の一つになった。
 分散が起きて、その粒子の一つ一つが負電荷を帯びていることが大切だ。私たちの手は負電荷を帯びているから、再付着が不可能なのである。
 事実上、どんな布地も負電荷を持つことが分かっている。したがって洗濯は有効な手段である。

 しかし人類は思わぬものを作りだした。合成繊維の中にはどういう訳か、水中で正電荷を帯びるものがあるのだ。むろん、そういうものは衣類には使えない。洗濯できないからだ。洗えば洗うほど、汚れを吸着してしまう。役立たずでうち捨てられていたが、それを使う用途を開発した人がいる。

 その種の糸で布地を作り、それを使う例を考えるのだ。
 時々起こるタンカーからの油が流出して起こる海洋汚染がある。大変な被害だが、特殊な界面活性剤を撒くと、海水中でも働いて油を乳化する。乳化すると表面積が増え、油を食べる微生物がいつかは処理してくれるだろう。しかし、漏れた油は還って来ることは無い。多大な損失だ。
 そういう時にこの布地を大量に投げ込んで、それを回収する。その布地は正電荷を持っているので、乳化剤に囲まれた油粒子は電気的に結合するだろうから、油でべとべとになった布を回収し、絞れば、いくらでも油が回収されるだろう。

 石鹸で、油の付いた手を洗うときれいになる理由は正しく書けるだろうか。電荷を含めた文章でないと正解とは言い難いのだ。
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陽イオン界面活性剤

 衣類乾燥機がある。昔アメリカで買ったかなり大型の機械だ。出力5.4 kwで、240V仕様である。変圧器で200 Vから昇圧している。電気代が掛かるので、深夜にしか動かさない。深夜電力はかなり安いからだ。柔軟剤を浸み込ませた紙状のものを放り込んでスウィッチを入れる。大出力なので短時間で終わり、衣類の繊維は傷みにくい。日本製のものは2時間以上も廻っていることがある。必要電力量は同じでも、短時間の方が良いに決まっている。

 そのフィルタには衣類のホコリが大量に引っ掛かる。考えてみれば、このゴミは衣類から落ちて、床や家具に散らばる運命にあったものだ。その分、住居内のゴミが減るわけで、当家は掃除の頻度がかなり少ない。

 フィルタに着いたゴミは、洗面台のボウルを濡らしておき、そこにフィルタをはめ込んで表から手で取る。多少のホコリは裏側からボウルに落ちる。あとでそれを洗えばよい。この方法は、室内でホコリを立てずにゴミを外す方法で、なかなかうまく機能する。長年やっているがこれに勝る方法はなかなか見つからない。掃除機に吸わせると、中のフィルターがすぐ詰まるし、ゴミの一部はフィルターを透過して撒き散らされる。濡れたものに吸い付かせるのは、最も簡単にして、確実な方法なのだ。
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 そのホコリには柔軟剤が浸透している。柔軟剤やリンスは陽イオン界面活性剤だ。繊維や我々の身体表面は負電荷を持っているから、陽イオン界面活性剤は吸い付けられて、その表面に膜を作る。この電荷による反発力がファンデルワールス力より大きければ、繊維同士の付着はさまたげられ、滑りが良くなる。即ち柔軟性を感じるようになる。また、髪の毛に着けば、毛の一本一本が、独立して運動できるようになり、さらさらとした感じを与える。さらにもう一つ大きな利点がある。微生物はその表面に負電荷を持つので、陽イオン界面活性剤が集中して覆いつくし、微生物は死んだり、活動が弱まる。夏に柔軟剤をたくさん使えば、汗臭さが抑えられる理屈は、これである。
 フィルタの裏から落ちたホコリはボウル表面の負電荷に吸着されるから全く飛び散らない。
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 問題はそのホコリが洗面台のボウルにくっついて、水で洗っても取れないことだ。非常によく付着している。そこで、石鹸を手の中で少し溶かしてそれを塗りつけると、あっという間に流れて取れる。正電荷が中和されてしまったからだ。おそらく石鹸が取り囲んで負電荷が優ったのだろう。

 乾燥機を動かすたびに、こんな遊びをして楽しんでいる。

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