防爆工具

 筆者はバッタ屋に行くのが好きである。雑多な商品を、ごく適当な価格を付けて売っている。値付けをする人には知識がないので、価値ある商品にもでたらめな安い価格が付いている時がある。玉石混淆であるから、その中から宝物を探すのは楽しい。

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 先日は宝物に遭遇した。このモンキーレンチである。上はごく普通の商品で、鋼でできている。価格は新品で2000円しないだろう。
 下はベリリウム銅(Beryllium Copper)製である。裏に”BERYLCO”と、刻印がある。ずしりと重い。銅合金だから、鋼より密度が1割以上大きい。新品なら、2万円出しても買うのは難しいだろう。それを数十分の一で買った。防爆工具ということを知らないから、変な銅めっきのしてあるモンキーレンチだと思ったのだろう。こういうことがあるからバッタ屋巡りは楽しい。

 防爆という概念は普段の生活の中には無い。先日の造船技師の話にはよく出て来た。タンカ―などの内部を洗浄したり補修するとき、可燃性ガスが充満している中で作業せねばならない。原油の井戸付近の作業でネジを締めたり、ハンマーで叩く必要がある時は、引火の可能性がある。
 普通の鋼製ハンマーで叩くと、火花が散るだろう。鉄合金は熱伝導度が小さいので、摩擦などで局所的に温度が上がるからだ。ベリリウム銅は鋼と異なり、グラインダ―で削っても全く火花が出ない。
 銅合金なのにどうして硬いのかは、かなり難しい話だ。ベリリウムを2%強含むものを300℃付近で2時間ほど保つと、ベリリウムと銅との金属間化合物の結晶が析出するらしい。それが塑性変形の時の結晶全体のずれを防ぐと考えられている。
 ベリリウム銅製のタガネまである。鋼のボルトはこれで叩き切れる。驚くべき硬さだ。ハサミもあって、磁気テープをそれで切っていた時代がある。

 磁気を帯びないので、磁界の変化で爆発する機雷(海の中に沈めて、鋼製の艦船が通過すると爆発するようにした兵器)を取り除く船に使う。掃海艇(mine sweeperという)の船体は、木製でエンジン、スクリュウなどはこのベリリウム銅で作られている。最近の船体はFRP(ガラス繊維強化プラスティック)で作られている。通信機器を持たず、すべて手旗信号で通信するそうだ。

 以前ハサミを持っていたが、引っ越したときに行くえ不明となり、久しぶりにベリリウム銅の工具を手にした。
 ベリリウム銅製品は問題ないのだが、製造時に出るベリリウムの酸化物、炭酸塩などに対して、激しいアレルギィ症状を示す人がある確率で居る。また発がん性があるということになっている。筆者は酸化物に対して全く無感であることが分かっているから、平気である。

 筆者の友人の父君は、この合金に関して我が国随一の研究者で、いくつか面白い話を聞かせて戴いた。お亡くなりになって久しい。
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顔料

 顔料は溶媒に溶けない色素のことである。油に分散させて塗るとペンキになる。分散させてあっても、乾燥・硬化する途中で凝集しないようにする技術が難しい。
 単純な話であるが、車の塗料となると難しいことがたくさんある。例えば、耐候性(太陽光に当てても褪色しにくいこと)が十分にあることである。
 昔は顔料というものは沈澱そのものであった。硫化カドミウムの黄色、硫化水銀の朱色、水酸化クロムの緑などいくらでもある。それらはあまり細かくできない。粒子の大きさによって異なる色になる。粒子径分布を揃えることが大切である。 
 よい例が硫化水銀である。教科書には黒と書いてあるが、焼いて冷やすと赤くなる。
 硫化カドミウムは作り方と混ぜ物によって赤いものもできる。カドミウムレッドという色がそれである。これらの色は結晶が大きい時にしかきれいに出せない。即ち、塗装面は微妙にざらつく。これを梨地(なしぢ)という。

 車の場合は耐候性以外に、薄く塗れて艶がなければならない。これは大変難しい。最近M社が出した車は赤がウリだ。いい色を出しているが、艶が微妙に足らない。反射光で新聞が読めるかというと、やや疑問だ。

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 T社のCの赤は素晴らしい。顔料粒子を、粒子径がそろった分布で分散させる技術に長けているのだ。しかもその分散性が極めてよい。この写真を見れば、実力が分かる。どこの会社の顔料を使っているかは、だいたい見当が付く。
 お札の文字が反射して読める。このような塗装は今までなかった。凝集体を作らず密に顔料粒子が並んで塗膜化されると、その塗膜は平滑でグロス(艶あり)になる。
 どの程度の耐候性があるのかはまだ未知である。注意深く観察したい。

 話は変わるが、最近道路の黄色の線の色が変わってきたことに気が付かれただろうか。以前より、ややオレンジ色っぽくなっている。この顔料はカドミウムが入っていない。脱カドミウム化で、優秀な褪色しにくい有機黄色顔料ができたのだ。
 21世紀になっても、10年以上硫化カドミウムが使われていた。筆者は黄色の線の剥がれた破片を分析したことがある。ちゃんとカドミウムが入っていた。
 溶けて田んぼに入ればカドミウム汚染が起きると思う人は多いが、問題ない。その程度のカドミウム濃度は好ましい。私たちはカドミウムなしでは生きていけないのだ。希少不可欠元素として、カドミウムはリストアップされている。

 ドイツを中心にカドミウム排斥運動が起きている。一体、何を考えているのだろう。無くては困るものを排除している。日本も道路の黄線からのカドミウムが断たれると、健康被害が出るかもしれない。それに対して、特効薬の「カドミウム強化米」というのも出てくるかもしれない。 悪い冗談だが、全くのウソでもない。

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