褪色

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 最近自動車を買い換えた。もう20年近く乗った緑色の車で、完全に寿命が尽きたと言える状態であった。新しい車も緑系統の車なので、「緑がお好きなのですね。」と何人かに言われた。

 そうではないのである。実は緑の塗料が一番長くもつからである。前の車は屋外放置であったが、たまに洗って埃を落とすだけで、知らない人から新車だと思われたことが何度もある。あまり見かけない車種であったということもあるが、如何に緑が長持ちするかを物語っている。
 一番ダメのなのは赤である。自動車会社にもよるが、ほとんどの赤は光に弱い。色が抜けて、白っぽくなっていくのである。だから、赤い車を買うときは、完全遮光出来る車庫があるのが望ましい。屋外放置ではすぐダメになる。H社の赤い車は特に悲惨だ。郵便局の赤い軽トラックは、各社のものを使っているから、どの会社の赤が一番駄目かということはすぐわかる。

 塗料会社の人によると、赤は顔料が高価なのだそうだ。高い顔料の赤は多少長持ちするが、結局は駄目になるそうだ。ほとんどが有機顔料で、天然品を用いるらしい。以前このブログでも扱ったカイガラムシから取る色素を不溶化して作るのだ。それをカーマインという。生物の時間に酢酸カーミンで染色した試料切片を顕微鏡で見た経験もあるだろう。カーミンは英語読みするとカーマインである。

 上の写真を見て戴きたい。大阪で見つけた看板である。はじめは読めたのだが、赤がだんだん薄くなって、ついに見えなくなった。最も強調したいところが全く見えなくなっている。この3年ほど前の写真も撮った覚えがあるので探している。見つかれば比較のためUPする予定である。

 黄色も色が抜けて行く。昔はクロム酸鉛などを用いたのでかなりの耐候性があったが、有毒なので使用禁止となってしまった。

 緑は銅フタロシアニン系の顔料を用いる。これは素晴らしい性能を持つ。何年雨ざらしにしても平気だ。例えば、カラー印刷のポスターを雨曝しにする。まず黄色が消えて、その次は赤が見えなくなる。しかし緑のインクは完全に残る。そのインクも銅フタロシアニン系である。

 だから、車も緑系だと、いつまでも褪色せず気分良く乗れるのである。このことを知人に話すと、「そんな20年も乗る奴はいないよ。」と言われてしまったが、筆者は本気である。

 過去の経験から言うと、緑色および銀色の車はいつまでもきれいである。

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再受験のS君

 彼は突然現れた。再受験するのでよろしくということだった。W大の政経学部に行っていたのだが、どうしても医者になりたいので、退学してきたと言う。当時その学部は日本で一番入り難いとさえ言われていたのだが。
「化学は高校の時にやらなかったので最初からですけど、頑張りますから助けて下さい。」と頭を下げる。しかし一般論を言うと、化学をゼロからスタートして1年で仕上げるのは極めて難しい。たまたま筆者も執筆した本があったので、それを渡して、まずこれを読むようにと言った。

 授業はいつも一番前で聞いていた。説明の一つ一つに頷き、質問にもよく来た。その質問が、実に当を得た質問で、よく理解していることが分かった。なんと、模擬試験で化学の成績優秀者に名前が載った。受験の季節が廻って来て志望校を聞くと、京大医学部だと言う。しかしいくら優秀でも、それはなかなか難しい。

 彼はセンター試験で94%を取り、二次試験を見事に突破した。挨拶に来て、「先生のお蔭です。1年でここまでできるようになったのは、あの講義を聞けたからです。」と嬉しいことを言ってくれた。
 ところが5月になると、また彼が教室に居るではないか。

 「何かまずいことでもあったのかい?」と聞くと、「実は……、僕は関西弁、苦手なのです。卒業まであの中には居られません。やはり東京に行きたいのです。」と言う。「東京の大学と言っても色々あるけど、どこが希望なのですか?」と聞くと、「東大しかありません。」と言う。のけぞってしまった。
 また受験の季節が来て、彼が言った。「さすがに2年聞くと、出題者の意図が分かり、問題の背景まで全部分かるようになりました。完璧です。全教科の中で化学が一番得意になりました。」
 ところが残念なことに、受験の結果は不合格だった。

 諦めて京大に戻るのかと思ったら、「もう一年やります。」と言う。「センター試験の不出来のせいです。頑張りましたけど、7点しか上がりませんでしたから。」
「でもそこまで行くと、7点を上げることも、極端に難しいことじゃあないのかね?」と聞くと、
「来年こそパーフェクトを目指します。」と凄いことを言う。しかも退路を断つために、京大には退学届を出してきたと言う。

 そして、その年は見事に東大理科Ⅲ類に合格した。
 五月に、にこにこして挨拶に来るかと思ったら、浮かぬ顔をしている。
「どうしたんだい、嬉しそうにやって来ると思ったのに。」と言うと、「大変な間違いを犯しました。理Ⅲの連中の大半は灘高出身なのです。関西弁なのです!」

 しかし退学もせず、彼は卒業した。

「二つの最高学府に行って、何か感じたことがありますか?」と聞くと、こう答えた。
「京大に入った時は、新入生歓迎会で先生方が一人ずつビールを注いでくれて、『頑張ってくれよ、東大のアホウどもを引きずり降ろさにゃあ、ならんのだから…』と言ってくれたんですよ。でも、東大に入った時は、新入生歓迎会で『京大のバカどもを叩きのめすために、諸君も頑張るように…』って言われました。根は深いですね。」

 筆者の30年の予備校講師人生の中で、この二つの大学に両方入ったのは彼一人である。

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