日本人の働きぶり

 もう40年も経つ。学生時代に友人を訪ねて日本海側のある町に滞在した。友人の父君はアルミニウム精錬工場の工場長であった。
「化学科の学生なら、アルミニウム精錬工場を見ておくべきだ。明日は朝礼がある日だから、ちょうど良いな。日本人が働くところを見ておくと良いぞ。もう無くなるんだから。」とおっしゃる。
「いや僕も日本人ですし、誰でも日本人なのですから、『日本人が働くところを見よ』と言われても…」と言うと、「まあいい、来れば分かる。」ということであった。
 
 朝礼では先月の成績の発表が行われていた。工場を八班に分け、互いに成績を競わせていたのだ。その月は第一班が最優秀だった。
「第一班、班長は前へ。」
「ハイッ」
「第一班殿、貴班は原料消費量の低減、電力消費量の低減、製品出荷量の増大、その全てにおいて最優秀の成績を収めたので、ここに表彰する。」
 班長はうやうやしく賞状を受け取り、班員に掲げて見せた。班員は飛び上がって喜んでいる。他班の連中はうらやましそうに見ていた。

 工場長に聞いてみた。
「第一班の人たちは、あれでボーナスが増えるのですか?」
「いいや、全然。」
「えっ、それでは頑張っても面白くないではないですか。」
「だから、今日見に来いって言ったんだよ。彼らは金のために働いているのではないんだ。名誉のために働いている。すごい熟練工たちなのだよ。おそらく世界一の熟練工たちだ。世界中でこの工場ほど効率良く、アルミニウム精錬をしている工場なんてありはしない。でも来月で閉鎖することになった。」

 当時、日本の電力単価の高さが問題になっていた。自前の発電所を持っているのだが、自社で消費するより、その電力を電力会社に売り、海外の精錬工場からアルミニウム地金を輸入した方が、ずっと儲かるようになったからだ。その工場もインドネシアかブラジルに移転するという話だった。

「ここの従業員を連れて行くのですね。」と聞くと、「全員クビだ。」という。
「そんなもったいないことを。熟練工は会社の宝ですよ。」と言うと、
「彼らは全員、近在の農家の長男なんだ。誰もこの場所を離れられないんだよ。向こうで雇う以外ないね。レベルはかなり落ちるだろう。でもそのコストを見込んでも、向こうの方がはるかに安いんだ。」

「君は今日は珍しいものを見たわけだ。このような光景は昔は日本のあちこちで普通に見られた。でも、もうすでに珍しくなってしまった。君はその最後の例を見たことになるのかもしれない。このことを語り継いでくれよ。」

 その晩、友人と父君と3人で飲んだ。苦い酒であった。

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無塗装の橋

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 アメリカに行くたびに気が付くことがある。あちこちで高速道路などの橋を建設しているのだが、鋼鈑が無塗装なのである。いずれ塗るのだろうと思うのだが、二、三年後に同じ橋を見ても塗装していない。
 車から降りてその橋を見上げると、建設当初の錆色より少し色が濃くなり、また表面の錆びが緻密に見える。触れるところであれば触ってみると、指で軽くこすっても錆が付かない。

 この鋼鈑はCOR-TEN Steel(コルテン鋼)と呼ばれるものである。普通の鋼ではなく銅を0.6%ほど混ぜたものらしい。最初は錆びるが、その錆びは内部を守る。すなわち無塗装で耐久性がある。
 鉄道車輌の側面にも用いられている。鉱石を運ぶ貨車の側面は多少のキズが付いてもひどく錆びることが無ければ、使用に堪えるからである。

 このCOR-TEN鋼は30年ほど前に日本にも紹介されている。一部の橋はこの鋼を用いて架けられた。しかし、極端に錆びがひどくなって崩落したり、架け替えられたりしたのである。
 実はこの鋼は海岸部では、錆を防ぎ切れないのである。海水中の塩化物イオンは、鋼の表面の緻密な酸化被膜を破り、さらなる腐食に参加するからである。それはUS Steel社のカタログにも明記してあったのであるが、日本の橋梁技術者がそれを甘く見たのである。

 海岸に面していなくても、海からの風は塩を含んでいる。浜松の駅北口にあるオブジェもこの鋼材を使用して作られている。錆が止まらないように感じる。錆の色が黄色いのである。浜松駅は海岸から 5km弱であるから海水の影響を否定できないだろう。

 考えてみれば、日本は海に囲まれている。よほどの山間僻地でなければ、この鋼材を使うことができないのかもしれない。

 日本でのもう一つの問題点は、市民の目である。錆びていると、塗装をサボったように思われるらしい。建設を担当した会社や、管轄する役所に電話が頻繁にあるのだそうだ。そのため、わざわざ、「この橋は特殊な鋼材を使用して、錆によって内部を守るようになっています。御心配には及びません。」という立て札を立てざるを得ないのだそうだ。
 

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