ホールピペット

 中和滴定の時に出て来るガラス器具のことらしい。この語源は不明だ。

 よくある誤りは、"whole pipette"だ。この"whole”が「全部」だと思っている人が多い。確かに辞書を引くとそういう意味もあるようだが、微妙に違う。この言葉は「何もかも」という意味である。正しい使い方は、缶詰に、「トマト水煮 ホール」と書いてある場合だ。このトマトは皮つきである。たまにヘタまで付いているものもある。「コーン水煮 ホールカーネル」と書いてあるのも見る。トウモロコシの粒が皮つきで入っている。
 その通りなのだ。ホールは「中も外も」という意味である。もし"A whole pipet"とあれば、それは「ピペットごと」というわけで、中和滴定の時はピペットも細かく折って入れなければならないことになる。そんなことをする人はいない。すなわち意味不明である。

 少なくとも、英語では"volumetric pipette", "transfer pipette" という。pipetという短縮形もある。tte語尾はフランス語の影響を残したやや古い表現だ。最近は短い綴りが多い。発音は後ろにアクセントがある。
 ドイツ語では"vollpipette"である。"voll-"は満たすという接頭語である。標線まで一杯にするなら意味が分からないでもないが、それを英語の"whole"にするというのは間違いだ。英語には別の言い方がある。ドイツ語のカタカナ表記ならフォルピペットが正しい。

 もうひとつ気になるのは、メスピペットである。これはドイツ語の目盛付きという意味である。英語では、
"Mohr pipette"あるいは"graduated pipette"という。前者は発明者の名前である。

 ビュレットは英語、ドイツ語、フランス語でほとんど同じ綴りだ。もともとはフランス語の水差しという言葉から来ている。

 化学の言葉にはドイツ語起源の言葉が多いが、それがいつまでも使われているのは不可解だ。そのまま使うのならまだしも、勝手に英語風にして間違えたままでは、初学者はたまったものではない。
 センター試験の初期の頃、一回だけ「(ホール)ピペット」という言葉を使った回があった。それを見て筆者は拍手を送った。分かっている人がいると。
 ところがそのあとは相も変わらず「ホールピペット」が連続して使われている。 

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補集合

イメージ 1

 最近銀行のキャッシュカードで送金するとき、昔からの磁気で読み取るタイプであると、知らぬ間に送金限度額が少なく制限されていることに気がついた。その限度額を増やす手続きをするために、三菱東京UFJ銀行の窓口に出向いた。すると、図の上にあるような3つの選択肢がある紙を示された。この3つのどれか?というわけだ。
 筆者は(2)を選んだ。すると窓口の人は「(3)です。」と言う。「どうして(2)ではいけないのですか?」と聞くと、「お客様のカードは磁気ストライプですから。」と答えた。

「そうかも知れないが、(2)で何が悪いのか、説明して欲しい。」と言うと、「このカードにはICが入っていませんので…。」と答えるうちに、その人の顔色が変わった。不備に気付いたのだ。
「そうですよ。このカードにはICが入っていないから、僕は(2)を選んだのですよ。(3)も(2)と重なっていますね。」
「でも、このカードは磁気ストライプだけですから、(3)を選んで下さい。」としどろもどろで、答えた。筆者は、「それでは聞きますが、(1)や(2)には磁気ストライプは付いていないのですか?」
しばらく沈黙が続いた。
「付いています。」

「ということは、この3つの選択肢には不備があるわけですね。」「はい…。」
「それでは(2)は間違いではない。(2)で受け付けるべきだ。それと本部に連絡して、この用紙を廃棄し、正しいものを用意すべきだと伝えてくれ。」と言った。

 その人はすぐ上席の人に連絡してネクタイを締めた人が中から出てきた。困ったことにこの人は論理が理解できない。高校の1年生でやることなのだから、分かるはずなのに分からない。ひたすら謝るのだが、「何を謝っているのか説明してくれ。」と言っても駄目であった。
 もう一人出てきたので、その人にこちらの言っていることを、本部の人にそのまま伝えるように頼んだ。善処されるか、心配ではある。

 この3つをベン図で描くと上の図の下のようになる。

 正しい選択肢を作って三つに分けるとすれば、
(1) ICカードであって身体認証あり
(2) ICカードであっても身体認証なし
(3) ICカードではない
となる。補集合の概念を使うべきだ。筆者は商売柄、このような選択肢の表現には敏感である。

 その後ICカードにして身体認証タイプを選択した。手をかざして血管のパターンを識別するタイプであって、限度額が飛躍的に大きくなった。


 20年ほど前、国鉄がJRに変わった頃の話だ。JR東日本では自動改札機が導入され始めた。横浜駅の改札口には、「裏が黒と茶色の乗車券」「裏が白色の乗車券」という二つの札がぶら下がり、前者は自動改札機を通れということらしかった。筆者は裏が黒い乗車券を持っていたので、有人改札を通ろうとした。そうしたら、駅員が「お客さん、これは裏が黒いから、自動改札に行って下さい。」と言う。
「おいおい、よく御覧なさいよ、あそこには『裏が黒と茶色』と書いてあるでしょう?。これは黒と茶色の塗りわけでもなんでもない黒一色だよ。だから通れないと思って、しょうが無いから、こっちに来たんだけど。」と言った。

 その駅員は口をあんぐり開けて見ていたが、「おっしゃる通りです。これは上に伝えます。」と言った。その後、この表示は書き換えられた。また、言葉遣いを正確にする例として、朝日新聞の天声人語にも採り上げられた。
 少々愉快な出来事であった。 

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