イソジン

 飛行機ネタのついでにもう一つ。飛行中にヨウ素デンプン反応の実験をしたことがある。

 ANAは、長年国内のみを飛んでいた。JALが国際線と国内の幹線を押さえていたからだ。しかし国際線も受けもつようになったので、筆者は判官びいきで応援していた。

 10年ほど前のことだ。ワシントンDCからの帰りの便の食器が何か汚れている。エコノミィクラスではなかったので、陶磁器の食器である。皿にもカップにも、なんとなく薄くこびりついている。食器洗い機を通すので、日本食のようなデンプンをたくさん含むものを、アメリカ製の食器洗い機はうまく落とすことができないのだろうと思った。
 その汚れをはがし取り、ポリ袋に入れて持ち帰った。案の上、デンプンがたくさん含まれていることが分かった。

 その半年後、シカゴからの帰りの便でまた汚れた食器が出てきた。そんなこともあろうと、消毒用のイソジンを小分けして持っていた。カメラを出して、薄めたイソジンを新しい食器に落として撮影した。その様子を見てスチュワーデスが来た。

「何かお気付きのことが…?」
「ほら、これを見たまえ。皿がきれいになってないよ。」
「失礼しました。すぐに取り換えて参ります。」

 何回持って来ても全て不合格であった。機内にはただならぬ空気が広がった。チーフパーサが来てひたすら詫びる。筆者に詫びても仕方がない。むしろ他の客に詫びるべきだが、それはなかった。

 帰国後、この顛末を文章にまとめてANAの本社に送っておいた。そうしたら、非常に丁寧な手紙と共に、アメリカでの食器洗い機の使用マニュアルの改善と、イソジンによるデンプンの残留汚れのチェック法などを書いてきた。
 イソジンではなく、テスト用のヨウ素液を使用するように勧め、必ず常温にまで冷えてからテストをするようにと念を押した。ヨウ素デンプン反応は、ある程度温度が高いと起こらないからだ。 

 その後、ANAの帰国便の食器は十分にきれいである。

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We are ready to take off.

表題の言い回しに違和感を覚える人には、なかなかお目にかかれない。「離陸いたします。」
という意味だ。ANAは、かなりの期間この表現を使っていた。10年ほど前、気になるので思い切って手紙を書いた。

 この文はおかしい。to不定詞を使っているのがおかしいのだ。それでは何と言えば良いのだろう。

 正解は、"We are ready for takeoff." である。アメリカのどの航空会社のアナウンスもこの表現である。どっちでも良いのではないかと思うであろうが、"takeoff"がワンワードであるところが大事である。

 言葉は進化する。徐々に短くなる。航空業界では戦前からtakeoffはワンワードであったそうな。これは色々な資料を当たって確認した。部外者は"take off"と二つに分ける。
 飛行機の内部の色々な表示を見ると、"takeoff" とか "taxi"と言う語が書いてある。それなのに表題のような言い方をしたり、"taxing"と言うアナウンスをしていたのだ。「タキシング」とは飛行場で乗降する場所から滑走路まで走ることを指す。業界用語は「タクシ」である。

 どうしてその航空会社の英語アナウンスがおかしいのか、何回かの手紙のやり取りの結果分かったことは、社内の英語教育の先生はイギリス人の一般人であった。ここでイギリス人かアメリカ人かは、あまり大きな違いはない。問題は一般人であったことだ。
 飛行機に乗れば子供でさえも「離陸」という言葉を理解せざるをえないであろう。そんなときに「それでは飛び上がる準備ができました。」と言ったら乗客は大きな違和感を感じるのである。冒頭の表現はまさにそれである。
 これはいわゆる"situational expressions"というもので、この場面ではこう言うことになっているのである。それ以外の表現は何かおかしく感じる。

 その航空会社に数十か所の間違いを指摘した。そしてしばらく経つと、徐々に表現がこちらの言う通りに変わってきたのだ。毎年3回は渡米する用事があるので、その度にスチュワーデスに聞いてみると、先生がアメリカ人の元スチュワーデスになったことと、教科書が変わったということを知った。航空会社からは礼状も戴いた。しばらくはなかなか快適なアナウンスであった。

 ところが、今回の渡米の帰りの飛行機のアナウンスはひどかった。文章もややおかしいし、イントネーションが間違っていて、何を言っているのかよく分からない。ただ、発音だけはRとLの言い分けをしっかり練習した形跡はある。しかしときどきそれを言い間違える。センター試験に強勢部分を指摘する問題があるが、あれは重要なことなのである。その部分の言葉さえ聞き取れれば、あとは聞こえなくても良いのである。相手に何かを伝えるときには最も大事なことなのである。

 航空会社にはまた手紙を出さねばならない。

Excuse us.

 友人の政治家に通訳を頼まれて、アメリカのオレゴン州ポートランドとカリフォルニア州サン・ホゼに行った。
どちらも市電を近代化させた自動車の要らない町である。尤も、完全に要らないのではなく、なくても生活できるようになっている。その見学と調査に同行したのだ。自転車や、乳母車、車椅子でも乗り降りが自由な電車が、町の中をくまなく走っているのは面白い。

 夕方になると電車はかなり混み合ってきて、筆者達が降りようとすると5,6人に動いてもらわないと無理な状態であった。そこで、筆者が、
“Excuse us" と声を発した途端、その辺りの人たちが場所を譲ってくれて二人が楽に降りられた。友人は非常に驚き、
「今、『イクスキューズ アス』と言ったね?そんな言い方があるのか!」
「だってさ、二人居るのだから、複数形にしないと君は降りられないじゃないか。」

 彼は昔、英数塾の講師をしていたそうだから、喋ることは不得意だが、英語多少は出来るはずであった。
「知らなかった。中学校の英語の教科書は役に立たないということか。」
「そうでもないさ、教える人が『これは一人のときで、たくさん居るときは "us”と教えれば良いだけのことさ。」
「でも、そんなことが出来る教師が居ないよ。」
「そうかな。でもその言い回しを聞けば分かるはずだよ。勉強の仕方次第さ。例えばさぁ、連れていた子供が誰かの足を蹴っ飛ばしたとする。そしたら親はその相手に申し訳ないと謝るだろう?なんと言えば良いのだろうね。」
「うーん、そうだねぇ、”Excuse him”かい?」
「ご名答!それで良いのだよ。」
「そうか、理屈を考えて言えば良いのだね。この言い回しはいろんなバリエーションがあるのだ。」

 彼はずいぶん感動して反芻していた。
 さて、皆さんの周りの英語の教師はこの言い回しが可能だろうか。

健康診断

 最近健康診断に行った。いわゆる人間ドックというもので20項目くらいの検査を受ける。身長体重とも去年と変化なし。視力は両眼とも1.5以上と出た。検査の人は「よく見えますねえ」と驚いていた。「こんなに見える人はほとんどいらっしゃいませんよ。」とのことであった。
 最後に医師による面談もある。数年前、面談室の扉を開けて、医師、筆者双方が声を出すほど驚いた。それは15年ほど前の生徒であった。強く印象に残っていて、忘れられないタイプであった。

「お元気ですか。」
「いや、それを診て貰いに来たのだよ。」
「そりゃそうですね。見せてもらいます………。すごくいい値ですね。この年齢から言うと、信じられない良い値です。30代前半の値ですよ。」
「悪いところはないのかね。」
「性格以外、皆OKです。」
「何だ?その性格とは!」
「いや、僕は2年間見てました。良いとは言えませんよ。」

 彼は二浪したのだ。その間二度ほど泣かせたことがある。要領の悪い男で、色々なことを考えて他の可能性をつぶして答を出すので、とにかく時間が掛かる。
「そんなやり方では、時間が掛かり過ぎる。医者になりたいのだろう?全ての検査をしているうちに、患者は死ぬぞ。」
と言うと、彼は泣き始めた。
「ある程度の仮説を立てて、要領良くそれを証明できないと医者には向かないよ。」と言うとさらに激しく泣いた。
 そんなことが二度あった。
 
 二年目も全て落ち、彼はしょげかえっていたが、N市立医大の補欠が出て、彼は合格の挨拶に来た。
「良かったね。でも患者を殺さない医者になってくれよ。要領よくする練習が必要だ。」と言うと、彼は何度も頭を下げて去った。

 そして、面接室での再会ということになったわけだ。
「先生はあまりにもはっきりものを言うので、それは良くないです。人生でたくさん損をしていますよ。」と言う。そうかもしれない。

 この男は、筆者に会ったらこれを言ってやろうと待ち構えていたのかもしれないと考えたりしたが、そうでもなさそうだ。
 握手をして別れた。また彼が涙ぐんでいる。「感謝しています。」と言う言葉が震えた。

 名医になるだろうという予感がした。

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