空気の密度

 コメントでの質問にお答えする。毎年ある講座で使うネタなので、今年は予定を変更しなければならない。

 この問題は30年近く前に考えたものだ。遠い親戚が、「予備校の講師をしているそうだから、問題作りは得意だろう?」と、入社試験の問題作りを頼んできた。彼は勤めている東証一部上場企業で人事部長をしていた。四大卒(四年制大学卒)の化学の入社試験を作ってくれというのである。レベルは、大学入試程度にしてくれとのことであった。
「このことは最低十年間は秘密を守ってくれなければ頼めない。謝礼は十分にはずむ。」と言う。
こちらの条件は、「その得点分布を知らせて欲しい」だけである。双方納得して問題を20題作って渡した。
 大卒の入社試験なのに大学入試レベルとは不思議であったが、得点分布を見て納得した。みなそれほど出来ているわけではない。大学に行くと頭が悪くなるようだ。

 さて、その問題の第一問は「同温、同圧では、乾いた空気と湿った空気ではどちらが重いか。」であった。空気の平均密度は29である。28.8という間違った数字を吹き込まれている人も多いだろうが、窒素が78%、酸素が21%、アルゴン0.9%などの値を用いて計算すれば29に極めて近い値になる。 そこに分子量18の水蒸気が2~3%入ればもう少し軽くなるだろう。

 この問題の正答率は5%程度であり、事実上ほとんどできていないに等しかった。ほとんどの人は乾いた空気のほうが軽いと思ったらしい。湿った布団と乾いた布団であれば、乾いた布団が軽いが、これは気体の問題である。
 気体は温度が一定であれば、その種類に関係なく、分子数によってその圧力、体積が決まる。これを束一性(そくいつせい)と言う。気体だけではなく、蒸気圧降下、浸透圧なども粒子数だけで決まる。要するに、その時、分子の個性は現れて来ない。
 しかし、質量だけは気体分子の分子量で決まってしまうので、軽い分子である水はその数が増えれば平均分子量が低下するわけである。

 したがって、砂漠地方で水たまりがあると、そこには上昇気流が発生する。温度が多少違っても、分子量の違いが大きいのでその効き目が大きい。
 また、夏の暑い日に湿度の大きな地方での飛行機の離陸にはたくさんの燃料が消費される。このあたりのことは、空気の密度が非常に大きく効いてくる。真冬の乾いた空気では酸素の比率が増大するし、密度も高く揚力が多く発生して得である。だから夏の運賃が高いというわけではない。

 この問題をある講座で使ってみると、意外に評判が良い。「クイズ番組などに投稿したら、採用されるかも知れないね。」という話をした。おそらく、今回の問題は、昔の生徒が投稿したのだろう。採用されたので、それはそれでよいことである。原稿料はいずれ、多少おすそわけがありそうだと期待している。

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微分・積分

 反応速度の講義があると思い出すことがある。もう10年以上も経ってしまったが、千種校での出来事である。

 講義中、簡単な微分方程式の話をした。変数分離法であるから、極めて初歩の微分方程式である。その中で、d[A]/dt と書いた。 すなわち、Aの濃度の時間変化率すなわち反応速度を表したのである。
「これを時間tで積分すると…」というわけである。ほとんどの生徒はよく理解したはずだ。

 ところが、あとである女生徒が質問に来た。
「tで積分するとはどういうことなのですか。そんなことは数学の時間に習っていません。」と言う。筆者は耳を疑った。
「貴女は数学Iまでしかやっていないの?」と聞くと、「数IIIまでやりました。」と言うではないか。「成績は良くないのかな?」と聞くと、「数学の成績は良いです。」と胸を張り、「偏差値は65くらいです。」と付け加えた。
「何かの間違いじゃないのかね。君は数学ができないよ。」と言うと、彼女はひどく怒って、「それは侮辱です。私は数学ができます。」と言うではないか。

「あのね、tの関数をtで積分して何が悪いのかね。」と言うと「積分はxで行うものです。」と言い切った。
「じゃあ、yで積分と言うのはどうだい。」と聞くと、「yでの積分はできます。」と言う。
「それならね、x=tとすればどうだい?」と言うと、「そんなのはインチキです。書き換えただけではないですか。」と、憤懣やるかたなしという様子で答えた。
 筆者は頭を抱えてしまった。

 この生徒は数学をパズルだと思っているのだ。問題を与えられると、覚えているある手順に沿って式を変形して答と思しき形のものに到達する練習をし、それに習熟したのだろう。しかし数学を全く理解していない。
「もういいから行きたまえ。私にはもう話すことはない。君の友達で数学と物理が得意な男の子がいるだろう。その子にこの話をしてごらん。」と言うと、「突き放すのですか。」と言う。
「そうだよ、その子に聞いて、もし私が間違っていたら、来週私はあなたに土下座するよ。もし貴女が間違っていたことが分かったら、頭を下げに来なさい。」と言うと、その生徒は「フン」といった態度で出て行った。

 その次の週、千種校に出向くとその生徒が居た。廊下でいきなり「まことに申し訳ありませんでした。私のとんでもない間違いです。失礼なこと言ってしまいました。お許しください。」と大きな声で土下座して謝るのである。他の生徒の目もあり、少々恥ずかしかった。でもなんとなく良い気分であった。その生徒は理解したのだ。数学は物理を説明するために使われる言語であると。

ヨウ素とセシウム

 放射性ヨウ素の半減期は8日くらいである。放射性セシウムは30年。どちらが危ないか、が話題になる。放出源からの流出が止まっていると仮定すれば、ヨウ素はしばらくすればなくなるので、そういう意味では安心である。ただし、放出された直後に吸収するとまずい。急速に壊れるのでその分が被爆の原因になる。甲状腺での蓄積が言われているが、それはヨウ素が足らない地域の場合であろう。日本では海藻を食べて、ヨウ素は過剰気味であるから甲状腺に蓄積されるというのには同意しがたい。大陸の中で、もともとヨウ素源がない地域ではこれは重大なことであると思われる。

 セシウムはどうであろうか。最近セシウム汚染されている地域の表土を入れ替えるという話題が出ているが必要かどうかは疑わしい。セシウムは当然セシウムイオンの形で存在する。これはイオン半径が大きい。すなわち、極端に水和しやすいということである。地下にゼオライト径の鉱物がたくさん含まれていなければ、日本は雨が多いから、水で洗い流されて地下水に入るであろう。結局は海に流れ出る。生物による濃縮は植物にとりこまれることによるのが大半だ。その地域の植物を検査して、場合によっては廃棄する必要があるだろう。

 ゼオライトによる吸着の話が話題になった。先頃、放射性物質を含む水の処理に使うというアイデアが発表された。化学者なら当然思いつくことであるが、化学を知らない原発関係者にはなかなか思いつけないことであろう。
 ところで、下水処理場の汚泥にはゼオライトが蓄積している。それはどうしてかというと、家庭用の洗剤にはゼオライトの微粉末が入れてあるからである。水中のカルシウムイオンなどを吸着し、石鹸の不溶性塩の析出を防ぐためである。仙台あたりの下水処理場で汚泥中のセシウム濃度が高いという報告があったが、それは当然である。ゼオライトは東大の入試にも出るくらいありきたりの物質で、大きなイオンを吸着できる。いわゆる分子ふるいである。ゼオライトの分子構造は網目のようになっていて、その網目にひっかかるイオンは出られなくなる(出て行きにくくなる)。
 だから、地下水をなるべくたくさん汲み上げてゼオライトと接触させればかなりのセシウムは捕捉できる。半減期が長いということを考えると、大量に食べない限り、人体を通過する時間は限られているので、大きな被害があるとは考え難い。

 それにしても半径30キロという同心円を設定するのはおかしい。測定結果に基づくべきである。

 発電所周辺の汚染は甚大であるから、上記の話は適用できない。この事故の直後にシカゴで電力関係者の友人と話をした。水素爆発は想定の範囲内で、爆発したときも「ああ、やったな。」であった。燃料プールの話は「未知の領域だ。」と言っていた。
 いよいよその領域に踏み込んだのかもしれない。
 

原発のおなら

 東電に限らず原発関係のプロパガンダの間違い(明らかなウソを含む)には、過去30年以上に亘ってたびたび抗議してきたが、いつも木で鼻をくくったような返答しかない。まともな知識を持った人が答える立場に居ないのだ。うっかりそういう人が本当のことを答えると致命的な経営上の障害になると考えているのだろう。

 さて、「原発は放射性物質を封じ込めて全く外には出しません。」というフレーズを記憶されている方も多いだろう。これは明らかなウソである。原発に高い煙突がある。あれは何だろう。これに関して疑問を呈する人にはまず会ったことがない。全てを封じ込めているのなら煙突などいらないはずだ。

 核燃料を入れてある容器には、実は小さな穴があけてある。そこから放射性の希ガス、ヨウ素などは放出される。これらは半減期がかなり短いので迷路みたいな経路を通してある程度の時間を稼いでから放出される。要するに原発はいつもおならをしている。おならを放出しなければ燃料容器は爆発するだろう。これはどのマスコミも報じない。原発はマスコミ対策として、膨大な金をばらまいているからだ。

 先の地震・津波による原発事故後3日ほどで福島県の南西のほうでヨウ素131を検出という情報が流れた。風向きを調べるとそちら方向には吹いていなかった。これは何を意味するだろう。
 測定というものは、かなりの熟練を要するものだ。ゼロ点を確かめたのか。同じものを何回も測って同じ数値になるのかなどの問題はクリアしているものと仮定する。

 震災後の風によって運ばれていないのであるならば、それはそこにもともとあったということだ。最近は計測器の検出限界がかなり小さくなっているので、極端に小さな値でも拾い出せるのだ。筆者はそれは以前放出したヨウ素131が検出されたものであろうと推測する。

 また、4,5日後にアメリカ合州国ワシントン州シアトルの山奥で放射性ヨウ素、セシウム等を検出というニュースが流れた。大きな火山爆発ではないので成層圏までには到達しないから、ジェット気流にも乗らない。時間的にやや無理がある。これも以前からそこにあったと筆者は考える。

 全ての測定値は、もともといくつだったのかというデータがなければ何の意味もない。この操作を「バックグラウンドを消す」という。今までの値に比べてどの程度の変化があったのかが大切である。東電はそれを公表しない。できないのである。

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