冶金

 もう20年以上前のことである。二浪していたK君が、嬉しそうにやって来て、
「受かりました。」と言う。
「そりゃ、よかったね。どこに行くことになったの。」
「ハイ、○工大です。」
「どの学科?」
「チキン学科です。」

 これには驚いた。もういちど聞いてもチキン学科だと言う。隣にいた講師と苦笑いした。K君は「何かまずいことがあるのですか。そんなにおかしな大学ですか?」と真顔で聞く。
「○工大は立派な学校だ。君がおかしいだけだ。」
「何がおかしいのですか。何か間違ってますか?」とさらに聞く。
「自分の受けた学科くらい読めるようにしておけ。」と言うと、「チキン以外読めませんけど。」と言う。

 講師室でそのやり取りをしていたので、他の講師にも聞こえてしまった。「おまえ馬鹿だな。やきんと読むのだよ。ほら扁に点が2つしかないだろ。」と国語の先生に言われてしまった。
 K君は真っ青になったが、納得し、感謝して帰った。

 その後入学式があって、その次の日、彼はにこにこして現れた。
「先生、あの学科の新入生20人の中で『冶金』が正しく読めたのは僕だけでした。」と言う。こちらは仰天した。彼はさらに続ける。
「大学の先生は頭を抱えていましたよ。『もう駄目だ!』って。」 

 その次の年、その大学は学科名を変えた。金属マテリアル学科と。その後学科名は二転三転したようだ。
 冶金とは鉱石から金属を取り出し、純度を上げること、さらに合金を作り加工までを含む言葉である。この素晴らしい言葉が、日本語の中から消し去られようとしている。

 「陶冶」という言葉がある。もちろん、「とうや」」と読む。これは教育の意味を表す言葉である。粘土は器になり、鉱石は刀になると言う意味である。粘土は刀にはならないのだが、そのことに気付く人は少なくなってしまったように感じる。人間の持っている力をその向いている方向に伸ばすことを意味する。
 好きなことを見つけて伸ばせば、人生は楽しいと言っているのだ。

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