油脂が固まる理由

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 時々行くスパゲッティ屋の排気扇周りはきれいである。店長に聞くと、毎週雑巾で拭いていると言う。その程度でも十分きれいである。
 揚げ物屋の排気扇は、いつも掃除している割にべとついている。その違いはなんだろう。

 スパゲッティにはオリヴ油を使うが、揚げ物屋は菜種油を使っているようだ。その構成脂肪酸の違いがこの大きな違いを生み出している。

 オリヴ油は構成脂肪酸の95%がオレイン酸である。オレイン酸は炭素数18で、二重結合はシス型で9番と10番の炭素の間にある。二重結合が一つの脂肪酸は酸化されにくい。その証拠に、インドより西の地方の人たちは髪の毛にオリヴ油を塗る。もしオリヴ油が酸素によって架橋して固まるものであるなら、大変なことになる。

 天ぷら油は大豆油、菜種油、米ぬか油などのブレンド品だろう。これらの油脂には構成脂肪酸としてリノール酸が30%ほども含まれる。その構造は炭素数は18で同じであるが、二重結合が二つある。その位置はオレイン酸の二重結合と同じ位置と、もう一つは12番と13番の間にある。これらの番号はカルボキシ基を1として数える。
 要するにC=C-C-C=Cという並び方をしているのだ。この5つの中心の炭素原子は11番である。酸化はこの11番の炭素から始まる。これらの二重結合は全てシス型であることは当然である。

 リノレン酸はさらに二重結合が増えて、15番と16番の間にもある。すると14番の炭素はリノール酸の11番の炭素と同様、酸化を受け、架橋が始まる。

 つまり、二重結合を2つ以上もつものしか架橋が始まらないのだ。このことは、どの教科書、参考書を見ても載っていないが、どうして載せないのか、筆者にはその理由が分からない。
 相撲取りの髷を結うビン付け油もツバキ油で二重結合が1つのオレイン酸を沢山含む。間違って天ぷら油で結うと、大変なことになる。

 冒頭のスパゲッティ屋の調理場はオリヴ油しか使わないので、雑巾で拭くだけで十分きれいになるわけである。天ぷら屋では油脂の粒子がすぐ固まるので、そう簡単には取れなくなる。
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雑巾と消しゴム

 講義で分配平衡の話をした。溶けあわない二つの溶媒の間に、溶質がある濃度比で分配されるという問題である。溶媒を小分けにして、何度も操作すると、抽出率が増大するという話であった。計算問題だけでは面白くないので、少し身近な現象について話した。

 雑巾がけをするとき、1枚の雑巾を1度に全面を使って拭くよりも、半分に折って拭き、反対側を使ってもう一度拭き、裏返して拭いてもう一度裏返すと効果的だという話をした。このようなことは、日本の普通の家庭でごく一般的に行われてきたことである。
 話し終わったあと、生徒が妙に「なーるほど」という顔をしたので、「この話を、家で親や祖父母から聞いている人は?」と聞くと、意外にも数%の人が手を挙げただけであった。

 少々拍子抜けした。理屈を考えれば納得する話なのだが、普段の生活ではその伝承が絶えてしまっているらしい。生徒の一人に聞いたら、「先生、今は皆ティッシュを使うんですよ。」と言う。「家には雑巾はないのか。」と聞くと「ありません。」と言う。「タオルならありますが、雑巾はないです。」とのこと。
 筆者の世代は、子供のとき、このようなことを叩きこまれた。口うるさい祖母に徹底的にやらされたものだ。

 雑巾の話のあとで消しゴムの話をした。最近はゴムではなくプラスティック・イレイサー(字消し)と書いてある。要するに塩化ビニルに過剰の可塑剤を入れて、軟らかくしたものだ。その可塑剤は、フタル酸ジイソオクチルというエステルである。フタル酸のベンゼン環とグラファイトとが親和力を持つので、グラファイトを紙から剥がし取って字消しの方に移し替える。そうすると字消しの中のグラファイト濃度が上昇するので、それ以上消えなくなるだろう。しかし、字消しのプラスティックは軟らかく、こすった時に剥がれ落ちる。すると新しい面が出て、その中のグラファイト濃度が小さいので、また紙からグラファイトを吸いつけて移し替える、という優れた仕組みだ。
 プラスティック・イレイサーは適度な軟らかさと、吸着力を持つので消しゴムの代用品として機能する。

 新しいプラスティックの試作をしていた時に可塑剤の配合比を変えて、偶然見つかったものらしいが、この消しゴム代用品は、本物の消しゴムを駆逐して、よく売れている。
 だだ一つ、問題がある。この字消しのかすは、床に落ちると塩化ビニルのタイルを損傷する。過剰に含まれた可塑剤がタイルを軟らかくしてしまうからだ。それを防ぐために、タイルにはワックスを塗っている。こうすれば、かすはタイルには直接接触しない。

 予備校の床がワックスで丁寧に手入れしてあるのは、このような理由である。(多分掃除の人も、誰も気が付いていないだろうが)

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