元素の定義

 センター試験が近付いてきた。
 いつもこの時期になると思い出すことがある。それは広島の校舎の講義であった。元素の定義を、「原子番号、すなわち陽子数だけによる原子核の分類法」として、単体と元素の区別の話をした。はじめ、生徒たちはよくわからないようであった。
 次の週、それらしいアルミのスーツケースを持っていき、「今日は全部の元素を用意してきたから、あとで一人ずつ見においで。」と言った。
 最初に来た生徒さんは、「先生、プルトニウムを見せてくんさい。」ときた。「ほら、94番」と周期表を見せたところ、その生徒は「プルトニウムを見せてくれんとインチキじゃけん…。」と言った。「全ての元素と言っただけで、単体を見せるとは言ってないぞ。」と言うと、はじめはぶつぶつ言っていたが、そのうち「なるほど!」と理解した。
 二番目の生徒さんは、「金を見せてくんさい。」と言ってきた。「ほら、」と周期表の79番を見せた。その生徒さんも唖然としていたが、ほどなく「そりゃそうだ。」と納得して帰った。
 この調子でひとクラス40人ほどの相手をした。その年の共通一次試験に、元素と単体の区別をさせる問題が出た。彼らはその問題は満点であった。ずいぶん感謝された。

 その問題は、「成長期の子供にはカルシウムを食べさせなくてはならない。」というものであった。これが単体なら、殺人事件になる。
「鉱山から流出する水には銅が含まれていて、下流に公害が起こった。」というのもあった。これが単体の銅なら、下流民は銅を拾って大儲けしただろう。

 普段の会話に出て来る言葉は、ほとんどが元素名で、単体名は白金などの貴金属か酸素ボンベくらいしかない。

 元素の定義は大切である。これをないがしろにしてはセンター試験も危ういであろう。

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逆滴定 ??

 逆滴定という日本語がある。この言葉はreverse titirationあるいは、 back titrationの訳語である。日本の辞書には後者が書いてあるが、筆者はアメリカで前者を習った。

 たとえばアンモニアの量を知りたい。アンモニアを水に溶かしても、分子量が小さく逃げ出し易い。すなわち臭いがする。臭いがするということは、刻々と濃度が減少するのであるから、滴定する意味がない。
 したがって、「アンモニア水に塩酸を滴下する滴定曲線」を、よく教科書などで見るが、正しい操作であるとは思えない。

 未知の量のアンモニアを決まった量の希硫酸に吸収させ、硫酸アンモニウムとする。アンモニウムイオンは水和し、逃げ出すことはない。これを水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。この時、アンモニアの中和に必要な量以上の硫酸があるので、その余分な硫酸を水酸化ナトリウム水溶液で滴定するわけである。

 ここでやりたい実験は、アンモニアを酸で中和することである。しかしそれには上記のような理由で困難な点があるので、とりあえず多めの酸で中和し、その余分の酸を塩基で中和するわけである。行き過ぎた分を戻してやるのである。

 こうなると、この実験操作の名称はおかしいと感じる人も出てくるはずだ。逆ではない。戻り滴定と言うべきではないだろうか。筆者はそれを講義で説明する。生徒諸君は良く理解してくれる。しかし、いまひとつ、自信を持てないところがあったので、名古屋の鶴舞図書館に行って古い化学の本を探した。昭和二年発行の化学実験法という分厚い本を見つけた。

 それには、reverse titirationとあり、戻り滴定と振り仮名が付けてあった。当たりであった。言葉の深い意味を知ることができる人は、逆滴定とは訳語を付けないはずだ。
 日本は翻訳文化の国である。元の言葉を知ろうとする人に出会うことが少ないのは残念だ。

 "UNO"というカードゲームがある。あの中で "REVERSE" というカードが出てくる。そうすると今までとは反対に戻っていく。自動車のシフトレバーに"R"がある。あれもreverseで、車を後ろに戻す。

 これからは、胸を張って戻り滴定と言うことにしよう。

味覚を調べる

 酢は pH が2.8程度である。これを薄めていくと味が分からなくなる。何度かやってみたところでは、pH=4 あたりで感じなくなる。

 炭酸水は pH=4 弱で、それもわずかな酸味を感じる。炭酸水を少し薄めるともう何も感じなくなる。やはり、酸性の味覚の限界はpH=4以下である。

 それではアルカリ味の方はどうであろうか。最近の石鹸は残留塩基が少ないので pH=8.5以下である。独特のアルカリ味を感じる。
 重ソウ(炭酸水素ナトリウム)の水溶液は、濃度を問わず pH=8.3であることはご存じであろう。胃薬の主成分が重ソウであるから、胃薬を舐めればよい。明らかにアルカリ味を感じる。

 塩基水溶液を薄めながら舐めて感じる限界のpHを調べてみると、大体 pH=8 であることが分かった。

 ということは、味覚の中心は pH=6 近辺である。その理由は私たちの体がタンパク質でできているからである。
 一般的なタンパク質の等電点は pH=6 であるから、我々が中性と信じているpH = 7からは、やや偏っていることになる。
 ウールのようなタンパク質素材の繊維は、pH=8でも変性を起こし始めるから、専用の洗剤を用意すべきである。  


 
 

天然色素 

 最近強く感じるのだが、天然色素が入っていると安心という風潮がある。そして人工色素は目の敵にされているようだ。

 ときどき食べるアイスクリームに、赤い天然色素を配合してあると表示してある。これは何であろうか。

 カイガラムシという虫とは思えないような形の固い虫がいる。筆者の庭の隅の木に取りついているダニの一種にもつぶすと赤い汁が出るものがある。
 日本にいるものは小さいが、外国には巨大なものもあるそうだ。その色素をエタノールで抽出するとコチニールという色素になる。別名カーミンである。生物の時間に「酢酸カーミンで染色する」という表現がある。英語の発音はカーマインである。ラテン語の虫という言葉からきている。

 メキシコにはこの養殖場がある。直接見たことはないが、「あれだ」と指を指されたことはある。中はかなりおぞましいものだそうだ。サボテンに2センチくらいの赤い虫がとりついているらしい。
 
 これは天然色素なので、食品の赤は大半がこの色を使っている。虫から取ったものを食べるのは勇気が要るが、「知らぬが仏」ということなのだろう。ほとんどの人は合成色素を食品に使うと非難するが、「天然」と言うと「素晴らしい!」ということになる。

 その色素は、コチニールカイガラムシにとってどのような役割を果たしているのであろうか。邪魔なものかもしれない。
 

完全にアミノ酸にはならない

 先回の記事ですべてアミノ酸になると書きつつ、突っ込まれると困るなあと思っていたところ、早速昔の生徒さんで京大の大学院生からメールをもらった。考えていた通りのことが書いてあって驚いた。先のコメントにも同じ質問があった。
 メール転載の許可を得たので紹介する。

>さて、タンパク質の消化のお話しが出ておりましたので…
>ちょこちょことバイオの先生方のネタになる話なのですがタンパク質がアミノ酸まで完全に分解されるのであれば、BSEになった牛からどうしてクロイツェル・ヤコブ病になるんでしょう?
>…どうも消化系で100%完全にバラバラにしているわけでもなさそうです。
>結局、高次構造の強さの問題になってしまうのでしょうね。

>酵素でもものによって干からびただけで失活するもの、洗剤に入っているようにいつまでも元気なもの、色々です。RNA分解酵素に至っては100℃で煮てもまだ元気です(のぞけなかった他の酵素をつぶすために煮るくらいです)。洗剤の中身は、長持ちするように、あるいは風呂の残り湯がさめないまま来ても良いように、あちこちに変異をいれて非共有結合によって構造を作っている部分をSS結合で縛っているそうです。

前半は、まだ解明されていない部分である。後半は初めて聞く話で興味深い。有機編にも書いてあるように、酵素入り洗剤発売当初は風呂の残り湯を使うように指示がしてあったが、最近は冷水でもよいし、多少熱くてもよい。こんな工夫がしてあるとは驚きだ。

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